2月某日、金原瑞人先生と笹生陽子先生と中村航先生による最終選考会が行われました。
2009年度の審査結果と、審査員の先生方の選評を掲載いたします。

大賞(賞金100万円)
該当作なし

優秀作(賞金50万円)
該当作なし

入選(賞金10万円)
清水佳代子(東京都)
『てんとう虫のクイズ』

審査員のコメント
 元バトミントン部の部員が仲間の結婚式の披露宴で余興をすることになるけど、なかなかメンバーが集まらず、集まっても演し物が決まらず、主人公がどうしていいかわからなくなるあたりまではうまいけど、そこまで追いつめたら、しっかり納得のいく方法でそれを切り抜けさせてやらなくてはならない。だれかに頼んで解決という方法では、読者は納得しない。だれかに頼んでも結局うまくいかず、そこを主人公が必死に切り抜けてこそ小説になるんだと思う。途中までしっかり読ませるだけに残念。
(金原瑞人)

 期待感を持たせる出だしと、四人の女性のキャラクターが丁寧に描かれている点がよかったです。プロット的にはヤスシの登場が遅すぎました。
 また、サワコの問題が片付いたあと、失業中のカズミを伏兵として使い、第二の問題行動を取らせるなどすれば、中盤以降のドラマが作りやすかったのではないかと思います。終盤、尻すぼみな展開になったのが惜しまれます。
(笹生陽子)

 元バドミントン部の五人がよく書きわけられていて、また確かなリアリティがあった。冒頭、集まろうよ、と言っているだけなのに、こんなにもこじれていく様は、女子十年の歩みそのものの重さであって、主人公と一緒にちょっと苦しくなってしまうほどだ。後半それが、すかーん、と晴れていく様は気持ちよかった。物語の作り方にはやや不満が残ったが、作者は今後も書ける人だと思う。
(中村航)

受賞者コメント
 楽しみながら書き上げた作品が、今度は入選という形で喜びを届けてくれてとても嬉しいです。文章を書くことだけでなく、これから挑戦するどんなことに対しても今回の受賞は励みになります。ありがとうございました。


奨励賞
曲豆子(埼玉県)
『貯水タンク』

受賞者のコメント
 高校時代の思い出がつまった、自分でも好きな話なので、受賞をとてもうれしく思っています。奨励賞、ありがとうございました。


おおむら(兵庫県)
『いつみきとてか』

受賞者のコメント
 受賞の知らせを聞いて、大変嬉しく思います。ただ、十年前の自分は、十年後に御社から大賞を頂いているはずでしたので、この結果に改めて現実の厳しさを知ると共に、一層の努力と精進を決意した次第であります。




総評
金原瑞人先生
 『いつみきとてか』は作者の立ち位置がよくわからなくて、どう読めばいいのか悩んでしまった。もう少し色をはっきり出してほしかった。『貯水タンク』は最終選考に残った作品のなかでは一番楽しめた。なにより、主人公をふくめ高校生のリアリティが肌感覚で伝わってきたし、コミカルな部分もけっこう笑えた。ただ、書き慣れていないのか、作品自体が弱いし、最後も腰砕けの感が強い。新しい作品を書くつもりで大きく書きなおしてみてはどうだろうか。

笹生陽子先生
 全体、平易な文章で書かれた読みやすい作品が多いな、という印象を持ちました。反面、進行表もキャラ設定表も作らずに書いているのでは、と思いたくなる作品も多かったです。
 『いつみきとてか』はライトノベル風味の構図(元中二病と現中二病の男女の出会い)を一般小説に持ちこみ、軸ぶれさせずに描ききった点を評価しました。文章は後半のほうが面白かった。史学科、という設定を多重に使いまわすなど、作劇法がわかりかけているかたのようなので、この方面での技術の強化をお薦めします。
 『貯水タンク』は書き手の年齢に比して文章が大変にお上手でしたが、後半の展開がかなり苦しかったです。登場人物の整理も課題のひとつかと思います。さらなる進化を期待します。

中村航先生
 『貯水タンク』には確かな魅力があった。登場人物たちは、本当の友人って何だろう、ということを考え迷い続けているのだけれど、その様を等身大的なリアルで描けている。ただ、ラストを書き急ぎすぎていて、簡単に言うと、小説を終われていない。『いつみきとてか』は後半わくわくしながら読んだ。ラストシーンも気持ちいい。前半は主人公が心情をガードしすぎで共感できないし、ドラマの仕掛けも遅い。心を開いていくプロセスは、きっともっともっと面白く書ける。